「森は生きている」
マルシャーク作 湯浅芳子訳
「森は生きている」物語

 深い森の中。降りしきる雪の中で少女と人間たちが出会った、自然の底知れぬ恐ろしさ、そして全てに許しを与える暖かさ。春を待つ長い冬、奥深いロシアの森の精たちがほんの束の間に見せた幻影は、親のない少女に生きるためのヒントを与えてくれます。ロシアの精(自然)は、神でも悪魔でもなく、しかし厳かに人間の傍らに寄り添って暮らしているのです。
 作者マルシャークは、ナチス・ドイツがロシアの大地や都市を焼きつくす第二次世界大戦中、その戦火の最も烈しいときに、この物語を書きました。戦火の中で子供たちに伝えようとしていた彼の想いは、物語の中で今も鮮烈な煌きを失わず、作品に命を通わせています。
 自然との共生が叫ばれる今日の人間社会。高度な文明社会の中で私たちが見失っているもう一つの巨大な世界は、今も私たちのすぐ傍らに暮らしています。長い冬が終わって、明るく燃え立つような「春」の到来を待ちわびながら。



 雪の降りしきる大晦日。両親を早くなくしたまだ少女の女王は、きまぐれな「おふれ」を出しました。「マツユキソウを摘んできた者には、金貨を籠一杯に与える!」と。
雪の降り続く暗い森の中をみなしごの少女が凍えながら歩いています。意地の悪い継母とその娘から「マツユキソウをとるまで帰ってはならない」と言われたのです。

「燃えろよ燃えろ 明るく燃えろ 消えないように!」


 彼女を救ったのは、森で年の暮れのお祝いの焚き火をしていた12の月の妖精たちでした。
 4月の精の少年が1時間だけ春を呼びマツユキソウを咲かせたのです。少年は少女に指輪を贈ります。「僕を思いだして。困ったときにはこの指輪が助けてくれるよ。」そして一月の精は「ここへの道も、ここであった事も人に言ってはならない」といさめるのでした。


 マツユキソウに喜んだ女王は、森に連れて行くことを命じます。しかしみなしごの少女は約束を守って口を開きません。怒った女王は指輪を取り上げ氷の間の水の中へ放ってしまいました。すると12の月の精たちが現れて、人間たちの目にあらゆる季節の美しさと自然の猛威を繰りひろげて見せます。
 再会を喜ぶ少女と12の月の精たち。心のすなおな少女と、12月の月の妖精たちは、凍えてしまった女王や兵士を御殿に帰してくれるのでした。馬で走り去る少女に4月の精の少年が叫びます。
 「さよなら、かわいい子。僕がお客に行くのを待っていておくれ!」
 


 
元サイトはこちら